少女達は夢に見た。
確かにそんな感じするかも。


暑いの嫌いそうなイメージ。


「憂鬱(ゆううつ)だな……。」


黒板横にあるカレンダーを見つめ、歩乃香は呟いた。





比較……というのは、物事を認識するのに絶大な効力がある。


たとえば大きさを比べるとき。


比較対照があるのとないのでは、まったく違う印象をもたらす。


……つまりなにが言いたいかというと


友紀ちゃんの学力はものすごかった。


まず負の数の引き算ができてないし、


それ以前に一桁同士のかけ算を間違えるのはなんなんだ。


柚奈は全然おバカさんなんかじゃなかった。


むしろ頭がよく思えてくる。


友紀ちゃんの学力にはホントに呆れたけど、それでも私はめげずに教え続けた。


その結果が……


「ね?すごくない!?友紀こんな点数初めてとったよ!!」


跳ねる友紀ちゃんの手にある答案なわけだけど……

「ねえ!褒めてー?」


「あーはいはい、よしよし。」


「冷たい。」


そんな頬ふくらましてもね、


1時間目の休み時間に教室に飛び込んでくるほどの点数じゃない。


正確には飛び込もうとした友紀ちゃんを察知した私が、入り口で止めたんだけど……。


「一瑠の教えかたがうまいから!!ありがとう!!」


つまり18点をとったのは私のせいだと。


今回は期間短いのもあったかもしれない。


でも……。


私の苦労はなんだったんだろう。


あ。


まだ柚奈の点数聞いてないや。


振り返って教室を見渡してみても、柚奈はいなかった。


トイレかな。


なんか友紀ちゃんのせいで柚奈が心配になってきた。


ちゃんと一人で集中して勉強できたのかな?


遊んでたりしてなかったかな……。


「一瑠?どうかしたの?」


「なんでもないよ。」


18点で無邪気に笑える友紀ちゃんが、ちょっとだけ憎らしく思える。


「でも本当一瑠のおかげ!すごいよ先生になれるよ!!」


私の反応なんてお構い無し。


友紀ちゃんのテンションは、私のテンションと反比例してどんどん上がっていく。


ついでに声も。


柚奈が教室にもどってきたのが分かっても、友紀ちゃんをほったらかすわけにもいかないから、


声をかけることができなかった。


「ね、また今度教えて?」


合わせた手を唇にくっつけて、首をかたむける友紀ちゃんに


素直にYESと言えなかった。


意地悪だな、私。


「ごめんね。ちょっと無理かも。」


友紀ちゃんの反応を伺うんじゃなくて


振り返って柚奈が何をしているのかを確めた。


こっちを見てるような気がして……。


でも実際は、浅間君と仲良さげに話してた。


男子とか女子関係なく柚奈は皆と仲が良い。

それに比べて私は、つまらない意地悪を言って……。


「や、やっぱりまた今度教えるね!私でいいなら。」


友紀ちゃんに背を向けたままで、そう言った。


「あっはー!ありがとう一瑠!!」


やっと向き直って。


するとそこに友紀ちゃんの嬉しそうな笑顔があった。


私も嬉しいはずなのに、後ろばかりが気になるのは、なぜなんだろう。



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