少女達は夢に見た。
「ええ!?友紀ちゃんも追試だったの?」


「友紀“も”ってなに。他に誰かいたの?」


「あ、ううん。なんでもない。」


昼休みにわざわざ呼び出されたら、そんなことを聞かされた。


つい驚いて、廊下だというのに大きな声を出してしまったじゃないか。


というか今声裏返っちゃったよ。


「だから、ね?教えてください!」


勢いよく頭を下げられた。


友紀ちゃん髪おろしてるからお化けみたいになって……じゃない!


「やめてよ廊下のど真ん中で!私がいじめてるみたいじゃん。」


そう言うと素直に顔を上げた。


乱れた髪をさらっと直す。


相変わらず髪の毛サラッサラッだなぁ……。


うらやましいよ。


「じゃあ教えて?」


これは……私が頼まれると断れない人間だということを知っての計算か?


まさか友紀ちゃんがそんな悪女であるとも思えない。


私が家に教えにいくのかな?


ちょっと面倒……。


てるちゃんも、夏休み近いのによくやるよ。


「分かった。私でよければ。」


「本当!?よかった……。」


「一応訊いておくけど、何点だったの?」


「え?2点」


早々に匙(さじ)を投げたい。


上には上…ならぬ、下には下がいるわけか。


なんの自慢にもならない。


「ちなみに前回の定期テストは?」


抜き打ちだったから、たまたま駄目だったのかもしれない。


そう思うことにして投げそうになる心を必死に持ち直す。


友紀ちゃんは、にっこりと笑い片手をつきだした。


パーを見せる。


え?


「5点!!」


「だめだめじゃん。」


一桁の先輩がここにいたよ、柚奈。





そんな先程のことを思い出して、自分なんかが友紀ちゃんの勉強を見きれるか不安になってきた。

5時間目は理科だし、少し憂鬱だ。


自分の席から窓を眺めていれば、おもわず溜め息が出てしまいそうだ。


「あーあ……。」


「どうしたの?歩乃香。」

だけど、私よりも先に隣にいた歩乃香が溜め息……のような声を漏らす。


歩乃香は私と違って理科得意なのに、どうかしたのかな?


「一瑠ちゃん……。」


「まさか追試とかじゃないよね。」


「追試?なんの?」


きょとん、と首をかしげた。


まあそうだよね。


「どうしたの?そんなにつまらなそうな顔してさ。」


アキも私と同じことを思ったみたい。


アキが歩乃香に訊く。


別に誰かが……。


そう。例えばアキが溜め息をついていたって、そこまで理由は気にならない。


ただ歩乃香だから、歩乃香がそんな風になるのが珍しいから気になる。


「ううん。もうすぐ夏休みだなって。」


「えー?まだ1週間あるよ」


確かにアキの言う通り、カウントダウンを始めるには、やや早い。


「夏休み嫌なの?」


そんなに気になるほど嫌なのだろうか。


「だって……あんまり嬉しくないよ。」


そう答えてくれた歩乃香の顔は、本当につまらなそうだった。


夏、嫌いなのかな?


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