Under The Darkness




「死ね! 色キチが! あんな場所で、あんな……っ」


 アパートの鍵を乱暴に開けながら、ブツブツと小さな声で悪態をつく。外されたブラのホックが気になって、けれど、こんな往来で留め直すわけにもいかず、肩を縮め周りにバレていないか戦々恐々としながら、京介君の後を追ったんだ。

 このまま逃走してやろうかとも思ったけれど、京介君の足は確実に私のアパートへと向かっていたので、進行方向はイヤでも同じ。

 平日の昼間だから、栞ちゃんは自宅にいないし、悠宇は東京。結局私もアパートに向かう以外選択肢はなくって。

 腹いせに、先回りしてアパートに戻り鍵を掛けてやろうと思いついた。

 先を行く京介君を放っておいて、裏道を使い、私は一足早く自宅へと到着する事が出来たとほくそ笑む。でも、溜飲が下がったのは一瞬だけ。

 鍵穴にキーを差し込みながら、ふつふつとした怒りが再び込み上げてくる。


 ――絶対許せない! 誰の目があるかも分からないあんな場所で、あんな破廉恥極まりないマネ……ッ!



 そう思った瞬間、先ほどの『あんな』出来事が頭に蘇ってくる。顔が一気に熱を持ち、真冬だというのに全身から汗が噴き出してくる。


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