Under The Darkness




「あかん! 忘れろ、あんなん犬に噛まれただけや。なんもないし、なんも思てないし、平気やし。……くそっ、頭おかしいんちゃう、あのエロ眼鏡め。死ね死ね死ねっ撲殺じゃっ」


 ぶつぶつと呪文のように文句の言葉が口を吐く。

 ガチャリと鍵が開き、扉に手をかける私の掌に、ヒヤリとした冷たい手が重なった。



「聞こえてますよ?」



 肩にスッと顔が乗り、耳元に息を吹きかけるようにして囁かれる官能的な声に、ゾワリと全身が粟立った。

 ギギギとギクシャクとした動きで、声の主を横目で見遣る。

 少しだけ顔を傾けた拍子に、頬に唇が触れた。


「きょきょ、京介君……っ」


 まいたと思ったのに。

 私の方が絶対早いと思ったのに。

 視界の端に映った京介君は、片唇だけつり上げた凶悪に恐ろしいご面相だった。

< 130 / 312 >

この作品をシェア

pagetop