Under The Darkness





 ――八年前、初めて会った時、確かに可愛らしい子だとは思ったけれど。

 まさか、あれが姉だなんて思わなかった。

 私の姉・美里さんは、容姿こそハッとするほどに美しいものの、いつも下を向いて誰とも話さない、一言で言ってしまえば地味で陰気な少女だ。

 声を掛けられただけで逃げ出してしまうその姿は、他人との接触を極端に嫌っているように見えた。

 先月美里さんを見に行った時も、暗くジメッとした印象は今までと変わらず、私はホッと安心したのだ。

 けれど、群衆に紛れても、美里さんは誰よりも目立ったし綺麗で可愛らしかった。

 街中で、誰もが振り返るほどに。

 その様を見せ付けられるたび、私の心は酷く苛立った。

 みんなの視線を集めてしまう、無防備に晒すその美しさを激しく憎悪した。



 美里さんを見るたび、私の心には理解できない様々な感情が渦巻く。

 何故たったそれだけのことで、こんなに激しく感情が揺さぶられるのか、私にはわからない。

 私の心をかき乱す美里さんは、苦手だ。

 どう対処していいかもわからない。

 理解できない感情は、不快で不愉快なものでしかないから。

 それでも私は、いつもたった一人で他を決して寄せ付けない、群衆から孤立した美里さんを見るのは好きだった。

 誰も受け入れず、心許さず。

 いっそのこと、ずっと孤独であればいい。

 美里さんが一人ぼっちだと確認すると、ひどく心が落ち着く。安堵に胸をなで下ろす。

 不可解で不可思議な感情。

 なぜそう思うのかわからなくて。苛立ちだけが募ってゆく。




 初めて屋敷の庭園で美里さんと出会った時の衝撃は、今も鮮烈なほど脳裏に焼き付いている。

 太陽の光を弾きながらふわふわ揺れる淡い金髪、緑よりも鮮やかで黄緑よりも深い萌葱色の美しい瞳。

 物陰から私は彼女の姿をずっと追っていた。

 あの金色に輝く生き物はなんだと、私は一瞬で目を奪われた。

 母に声を掛けられるまで、彼女は広い庭を舞うように跳ねながら、鈴を転がすような可愛らしい笑い声を立ててはしゃいでいたのだ。

 幼心に、西洋の童話に出てくる妖精ではないかと思ったほどだった。

 でも、馬淵の屋敷で見た活き活きと輝く彼女の姿は、大阪では見られない。

 それが私にとって一番嬉しいことだった。


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