Under The Darkness






 ブツブツと小さな言葉を刻む、美里さんの唇に目が止まる。

 吸い寄せられるように顔を近づけ、彼女の唇に触れそうになる。

 あと数ミリの距離。

 ぎりと奥歯を噛みしめた。

 このまま美里さんの唇を思うまま貪りたいという衝動が、私を激しく揺り動かす。

 それは、抗いがたいほどに強力な衝動だった。


 ……このまま、美里さんをどこかへ連れ去ってしまいたい。彼女の全てを喰らいつくしてしまいたい。


 貪欲で狂おしいこの想いはなんだ。


 私は、残骸のように横たわる男を見下ろした。


 そして、私は気付いてしまった。


 狂おしい想いの答えは、私が壊したこの男が持っていると。


 ……私は、こいつと――同じ、なんだ。


 その時、美里さんの唇が小さな言葉を紡いだ。


「……壊される、よ……」



 ささめくようなその呟き。



 ――壊される? 何に? ……誰に?



「誰も、私を……好きに、ならんといて……見んといて」


 
 美里さんは恐れている。

 男に好意を持たれることに対して、自我を手放してしまうほどに――――、恐怖し嫌悪している?

 でも、どうして?

 疑問が私の頭を擡げる。

 美里さんはそこで、ふうっと意識を手放してしまった。

 力なく弛緩した身体を、穢れた手で、私は抱え込んだ。ギュウッと、力を込めて。


 ああ、このまま私と同じく穢れてしまえばいいのに。


 醜悪に汚れ、堕ちてしまえばいいのに。


 誰の目にも止まらぬほど醜悪に穢れて堕ちてしまえば。


 私には眩しすぎる貴女を、手に入れられるのに。




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