Under The Darkness




「京介、お前、やるね」


 部屋から出た父さんに思いきり肩を叩かれ、思わず前のめりになる。ムッと父さんを睨んだ。


「父さんほどではありませんよ」


「いやいや、切り落としたアレを豪の口にねじ込んだ時には、さすがのわたしも引いたよ」


「何故? 美里さんにそれを強要していたと、彼が率いていた暴走族連中が言っていたので」


 同じ事をしてやったまで。


 何が悪いと父さんを睨む。

 すると、父さんは満足げに頷きながら、


「うんうん、わたしの跡目に相応しいね、京介は」


 などと、終わった話を蒸し返してくる。

 私はまたその話かと目を眇めた。


「跡目になどならないと何度も言ったはずです」


「じゃあ、美里ちゃんをわたしの籍に入れるよ?」


 法的に美里さんを娘として迎えると父さんは言う。

 その言葉に私は毛色ばんだ。


「そうはさせません。美里さんは父さんの籍には入れさせない」


「じゃあ、跡目を継ぐ?」


 川口組の杯を交わすか、美里さんを父に奪われるか。

 答えは火を見るよりも明らかで。

 にんまり人の悪い笑みを浮かべる父さんに、鋭い舌打ちが漏れた。


「結局美里ちゃんは馬淵の名前を名乗ることになるんだから、どっちでもいいけどね。わたしとしては」


 そう言い捨てると、父さんは乗ってきた黒の外車に乗り込んで去って行った。


「……狸め」


 私は手にした手袋を側溝へと投げ捨てると、バイク用の手袋をはめ直し、メットを被る。


「私は父さんの二の舞にはなりませんよ」


 美里さんの母・蘭奈にしつこく付きまとい、心を傾け始めた彼女を速攻で妊娠させた。

 そして、自分から逃げられなくしたまではいい。

 けれど、交際中に政略結婚をしてしまった事実がバレたことに加え、父さんの執着の深さに恐れを成した蘭奈は、故郷である大阪に逃げ帰ってしまったのだ。

 自分の激しすぎる執着心と独占欲の深さは父親譲りだと嫌になる。


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