Under The Darkness




「どうすれば、貴女は私に心を傾けてくれるのでしょうか」


 心臓を鷲掴まれるほどに狂おしい声。

 私の左手首の飾りをずらし、醜くえぐれた傷跡に彼の唇が触れる。


 ――手首の傷。それは、私の身体の中で、最も醜い穢れの象徴だった。あの男が奪ったものの痕跡が残る場所。


 誰もが嫌悪と憐憫《れんびん》に眉をひそめ触れることすらしなかったその場所に、躊躇なく唇で触れられて、心が千々に乱される。


「……どうすれば、私は貴方の愛を手にすることが出来る?」


 瞬間、魂が慄えた。

 残り1つとなったパズルのピースが、ピタリと嵌まった気がした。

 手首の傷に、穢れたその場所に、愛おしむように何度も口付けられてゆく。

 私を蝕み続ける闇ごと全てを許容してくれるような彼の仕草に、涙が出そうになる。



 ――なんで? なんでそんなことするの。



 もう私の心をかき乱さないで欲しい。

 私の意思を無視して強引に縛り続けようとする、京介君は私の『敵』なのに。



 京介君が私に向ける感情。

 それは、蛇蝎《だかつ》の如く倦厭《けんえん》していた感情だったはずなのに、悠宇をも退けるほどに心を蝕み、深く根を張る忌まわしい情念なのに。


 私の中にもかつてあった『愛』は、あの日、あの男と共に、消し滓《かす》となり消えたはずなのに。


 それなのに。


 今、私が感じているものは、嫌悪ではなく甘さの滲む戸惑いでしかなかった。



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