Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



「原因不明、と言ったな」



「はい。領民の何人かがその病に倒れたとき、高名な医者を幾人も呼びましたが、原因も治し方もわからぬと……」



「では、ラシェル殿下も危ないのでは?」口を挟んだのはエルマだ。

「死者が出ていないとはいえ、病がうつったら……」



 ところが、ギドはエルマの言葉を遮って首を振った。



「それが、どうやらうつるものではないようなのです」



「うつらない……? でも、現に病は広がっているではございませんか」



「はい。多くの農夫が病に倒れました。しかし、彼らに付きっきりで看病をする妻や子らには、うつっていないのです」



「妻や子……。女はその病にかからない、というわけではないのですか?」



「いいえ。女でも病にかかったものはいます。ただ、感染を防ぐてだてとして領民に必要以上の外出を禁じたところ、新たに病にかかる者がおおいに減ったのです」



 ギドの言わんとするところが理解できず、エルマは眉をひそめた。

それはつまり、感染を防ぐために外出を禁じたところ新たな感染者が減った、ということは、その病が感染症であるということではないのだろうか。



「それは……」ラシェルが言った。

「罹患者と同じ家に閉じ込められた非罹患者も、病にかからなかった、ということか」



 エルマはようやく納得した。

だからギドは「うつる病ではない」と言ったのか。



< 132 / 309 >

この作品をシェア

pagetop