Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 途切れ途切れに、懸命に吐き出す言葉は、しかしエルマたちの期待するものではなかった。


もう何十軒と家々を訪ねてまわり、それなのにそのすべてがこの老人と同じような答えを返したのだ。



(なにか、ないのか)


 ラシェルは強くくちびるを噛んだ。


 なにか、病の治し方を調べるいい方法が。ないのか。あるはずだ。



(おれの国の民が、苦しんでいるのに)


 自分にはなにもできないのか。



 膝の上でぎゅっと握り締めた手。

その甲を、ふいに、隣に座るエルマがそっと撫でた。



「今日は、もう帰ろう」



 そっと囁く声に頷いて、ラシェルは席を立った。


話をしてくれた老人とその家族に礼を言って家を出ると、もう日は沈みかけて、空は茜と瑠璃の入り混じったような色に染められていた。




「あーあ、結局収穫なしかあー」



 カルが言って、大きなあくびをしながら伸びをする。


その脇を、「こら」と言ってエルマがかるく小突いた。



「いてっ! なんだよエルマ」



 空気を読め、というつもりでしたことだが、カルには通じないとわかってエルマはため息をつく。



「明日は、もっと南のほうにも行ってみよう」



 前を行くラシェルがふいに振り返って言った。



「そうだな」と、エルマは頷く。



 夕暮れの村道を、三人ともそれからは一言も話さずに領主の館へ歩いた。


村は人が一人もいないかのようにしんと静まり返り、まるで廃墟にでもいるようだった。


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