Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 実際に自身の目で見てみて、なるほど快活で理知的な目をしているな、とエルマは思った。



「この者が、例の?」



 ラシェルは開口一番、イロにそう尋ねた。



「はい」イロが頷く。



「そうか。……アルの長だったか、顔を上げろ」



 エルマは言われた通りに伏せた顔を上げた。


そのエルマの顔を見て、ラシェルは「ほう、」と感心したように嘆息を漏らした。



「なるほど、よく似ている。……ほとんど本人じゃないか! ぜんぜん見分けがつかない」



 ラシェルの言葉に、イロが「はい」と応じる。



 状況が飲み込めないエルマに、ラシェルが「おれは第一王子ラシェルだ。アルの長、名は?」と尋ねた。



 問われたエルマは居住まいを正して、頭を下げる。



「はい、わたしはアルの長、先代カームの養子、エルマと申します」



 ラシェルは一つ頷いた。



「今日ここにおまえを呼んだのは、頼みたいことがあるからだ」



「は……、頼みたいこととは?」



 エルマはかしこまって尋ねた。背後でメオラが唾を飲みこむ音が聞こえた。

そのとき、ラシェルがエルマのすぐ目の前に来たかと思うと、唐突にエルマの手を取って、言った。



「おれの妃になってほしい」




< 20 / 309 >

この作品をシェア

pagetop