ラスト・ジョーカー



「ガラン、おまえがなぜそうも異形を疎むのか、私はよくわかっている。だが私と私の大切な者たちを救ってくれたエルは、私の恩人であり友だ。

そのエルを化け物と呼んだり、恐れて避けるようなことは許さない」



 ガランの完敗だった。

なにも言い返せなくなったガランはすごすごと引き下がる。



 不満そうなガランに麻由良はにこっと笑いかけると、

「それに、浄化石二十もついてくるしな」

 と、耳打ちする。


わざとだろうが、声が大きかったので周りにもちゃんと聞こえていた。


一人の男が「ちゃっかりしてるねぇ!」と笑うと、それが合図かのように隊商の人々が笑い出した。先ほどまでの緊迫した空気がみるみる溶けていく。



 エルはそこに、これほど若い麻由良が隊商長を務めるほど隊商の者たちの信頼を得ている理由の一端を見た気がした。



(この人は、空気を作れる人なんだわ)


 その場の空気を自分の思うとおりに作り変えることのできる人。

空気を支配し、人を支配する。それだけの魅力、引力のある人だ。




 エルが感心の眼差しを向けていると、それに気づいたのか、麻由良がふと振り返る。ワインレッドの髪が、ほとんど沈みかかった夕陽にきらめく。


からっとした力強い笑みを浮かべると、麻由良は三人の目をそれぞれ見て言った。



「では、ゼン、エル、アレン。我が隊商へようこそ。

一度迎え入れたからには、君たちが自らこの隊商から離れて行く時まで、君たちは我らの仲間だ。

ともに助け合って〈ハナブサ〉を目指そう」



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