ラスト・ジョーカー
エルが促すと、ゼンは迷うように口ごもる。
やがて、目を伏せて囁くように言った。
「おまえを化け物だと言ってしまえば、おれは自分を人間だと思えなくなる」
それはどういう意味? そう尋ねようとして、しかしエルにはできなかった。
なんとなく、訊いてはいけないような気がしてしまったのだ。
(だってゼン、なんだかすごく寂しそうな顔してる)
そう思ったとき、ゼンがふいにエルのほうを向いた。
「なにジロジロ見てんだよ」
言われてやっと、エルは自分がゼンを凝視していることに気がついた。
「み、見てない!」と言いながら、慌てて目をそらす。
すると隣でかすかに笑った気配がして、見ておけばよかったと少しだけ後悔した。
そのとき、「ゼン! エル!」と、野営地から呼ぶ声がした。麻由良の声だ。
二人が立ち上がって荷車の影から出て行くと、野営地のたき火のそばに立った麻由良が手招きをした。
「こっちに来て、火に当たりなさい。寒いだろう」
そう言われて、エルは困った顔で立ち尽くした。
ちらりとゼンを見ると、ゼンも黙ってエルを見た。
その目が「どうする」と問うているように見える。