ラスト・ジョーカー



 エルが促すと、ゼンは迷うように口ごもる。

やがて、目を伏せて囁くように言った。



「おまえを化け物だと言ってしまえば、おれは自分を人間だと思えなくなる」



 それはどういう意味? そう尋ねようとして、しかしエルにはできなかった。


なんとなく、訊いてはいけないような気がしてしまったのだ。



(だってゼン、なんだかすごく寂しそうな顔してる)



 そう思ったとき、ゼンがふいにエルのほうを向いた。



「なにジロジロ見てんだよ」



 言われてやっと、エルは自分がゼンを凝視していることに気がついた。



「み、見てない!」と言いながら、慌てて目をそらす。


すると隣でかすかに笑った気配がして、見ておけばよかったと少しだけ後悔した。



 そのとき、「ゼン! エル!」と、野営地から呼ぶ声がした。麻由良の声だ。



 二人が立ち上がって荷車の影から出て行くと、野営地のたき火のそばに立った麻由良が手招きをした。



「こっちに来て、火に当たりなさい。寒いだろう」



 そう言われて、エルは困った顔で立ち尽くした。

ちらりとゼンを見ると、ゼンも黙ってエルを見た。

その目が「どうする」と問うているように見える。



< 116 / 260 >

この作品をシェア

pagetop