ラスト・ジョーカー



 自分の価値がどれほどで、自分を狙う者が何をしでかすのか。


それを、予測することができなくなっていたのだ。



 どうして、あの男があれで諦めると思っていたのだろう。


どうして、隊商の者が巻き込まれる可能性を考えなかったのだろう。


――悔やんでも、悔やみきれるはずもなく。



「麻由良さん」



 うつむいたままのエルが言った。



「ミオちゃんが昨日着ていた服は、もう洗ってしまいましたか」



 予想だにしなかった問いに、一同が訝しげな顔をした。



「え……。いや、まだ」



「じゃあ、一枚持ってきてください」



 エルが言うと、麻由良は眉をひそめたまま立ち上がって、慌てたように部屋を出ていった。



「おい、化け物」



 麻由良の背を見送って、ガランが言う。



「どういうつもりだ」



「ミオちゃんの匂いが強く残っているものがあれば、匂いを辿って誘拐犯が今いる場所がわかるかもしれない。……化け物だから、鼻が利くの」



「誘拐犯の居場所をつきとめて、どうする」



「決まってる。ミオちゃんを返してもらう」



 即答したエルを、ガランは鋭い目で睨みつけた。



「ミオはおれたちで助ける。化け物の手は借りない」



< 144 / 260 >

この作品をシェア

pagetop