ラスト・ジョーカー
思いがけないことを言われて、エルは思わず顔を上げた。
「どうして」
「これ以上、異形と関わりたくないんだ。もうおれたちのことは放っておけ」
「ミオちゃんはあたしのせいでさらわれたんだ。助けるために、あたしだってなにかしたい。放っておけるわけがないじゃない!」
エルが怒鳴ると、ガランは難しい顔で黙り込んだ。
一階上で、麻由良がバタバタと歩きまわる足音が聞こえる。
しばらくの沈黙の後、ガランが言った。
「他人の、しかも化け物になにがわかる。おれたちが麻由良さん親子をどれだけ大切に思ってるか……」
ついに我慢できなくなって、エルは机を手のひらで思いきり叩いた。
バンッ、という大きな音に、ガランがめんくらったように目を見開いて黙った。
「バカね、もちろん他人よ! でも、大切な他人を助けたいって思うのは、人にとっても異形にとっても当然のことでしょう!?」
誰もが――ゼンでさえも、驚いたようにエルをまじまじと見た。
その一人一人の目をまっすぐに見返して、エルは言い聞かせるようにゆっくりと語る。
「あたしは化け物だから、ミオちゃんの匂いを追える。あたしは化け物だから、誘拐犯の男が十人や二十人束になってかかってきても勝てる。
あたしは化け物だから、あなたたち全員よりも強いわ。化け物だから、あなたたち人間にできないことだってできる。絶対に役に立ってみせる。ミオちゃんを助けてみせる」