ラスト・ジョーカー

*第四章 きみが呼ぶ名前 5*



 〈トランプ〉エリア〈ハナブサ〉支部内、地下。


真っ暗で長い廊下を、燃えるような赤い髪をなびかせながら、ウォルター・アシュクロフトは歩いていた。



 足下すら見えない真っ暗闇の中を歩く彼の足取りに、迷いはない。


しかしその後ろをついて歩く赤ら顔の男は、暗闇を恐れるように身を縮こまらせていた。


歩くたびに、男の両手首にかけられた手錠の鎖がカチャカチャと鳴る。



「なあ、どこ行くんだよ。なんでここ、電気つけないんだよ」



 男が前を行くウォルターに尋ねた。



「電気は通ってないんだ」



 男の後の質問にだけ答えて、ウォルターはずんずんと前へ進む。


だが男は質問を重ねたりはしなかった。どこに行くのかなど、予想はつく。


なにしろ男は誘拐犯だ。牢屋入りに決まっている。



 しかし、予想はできていても、おとなしく牢に入る覚悟は男にはなかった。



「おい、あんた!」



 喉の奥に痰のからんだ声で、男は再度ウォルターを呼んだ。



 足を止めず、振り向きもせず、ウォルターは「なに? 誘拐犯さん」と尋ねる。



「俺を牢にぶち込む前に、やることがあるだろ!」



「んー、なにかなあ? ぼく、思いつかないんだけど」



< 155 / 260 >

この作品をシェア

pagetop