ラスト・ジョーカー



 ウォルターの言葉には答えず、アレンは足を速めた。


ウォルターは肩をすくめ、その後ろについていく。



 後ろのウォルターの顔はアレンには見えないが、面白がるような笑みを浮かべているのだろうな、とアレンは思った。



(情が移った、か……。ま、その通りなんだよなあ)



 隙を見てエルとゼンを捕らえろとスメラギに命令を受けて二人の旅に同行したはずなのに、いつのまにかあの二人が好きになっていた。



 ゼンと共に歩く世界に目を輝かせる、エルの明るい笑顔が好きだった。


無愛想なゼンが、エルを見るときだけ目に宿す優しげな光が好きだった。


二人の旅が、いつまでも続けばいいと思った。


二人の幸せを、自分の手で壊すのが怖くなった。



(局長に拾ってもらってから、ずっとあの人の役に立つために生きてきたのに)



 スメラギは十歳の時に親に死なれて天涯孤独になったアレンを拾って、ローゼフィリア家に迎え入れてくれた。


アレンより二つ歳下であるにもかかわらず、大人たちの輪の中に混じって異形を研究するほど頭脳明晰な彼の手足として働くことが、自分の役割なのに。


彼に拾われてからの十年間、ずっとそうして生きてきたのに。




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