ラスト・ジョーカー



 ここまで来る道に、たしかにゼンの血痕があった。


それと同じ匂いの血が、ボロボロになったゼンの服に大量についている。



 それなのに、触れたゼンの体には傷一つない。



 まるで、塔から落ちた怪我がこの短時間で治ったかのように。


――まるで、エルのように。



「ゼンは、何者なの?」



 重ねて問う、エルの目はまっすぐにゼンの目をとらえた。



 見つめたゼンの目が迷うように揺れている。


そのことに、胸が痛むのをエルは感じた。



 ゼンに隠していることがあるのは知っていた。


ゼンがエルをさらった目的の全容をまだエルは聞いていないのだ。



「まだ隠すの? ……そんなに、あたしは信用できないの?」



 祈るような目でじっとゼンの目を見る。澄んだ、蒼碧の瞳を。



 そのまま、時が止まったように二人とも動かないでいた。



 やがて、諦めたようにため息をついたゼンが、すぐそばの木の根元に腰掛けた。



 そして、エルを見上げて顔を歪める。


その表情がどこか泣きそうな顔に見えたのも束の間。


ゼンはすぐにいつもの無愛想な顔に戻って、自分の隣の地面をぽんぽんと叩いてエルに座るように促した。



 エルが従ってゼンの隣に腰掛けると、ゼンはまっすぐ前を見たまま、ぽつりと呟くように言う。



「長い話になるけど……おれのこと、話すよ」



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