ラスト・ジョーカー



 背中をしたたか打った痛みで目が眩む。


起き上がろうともがく両腕を誰かがつかんで、次に手首に金属の冷たい感触が触れた。


アレンに手錠をかけられたのだと悟ったのは数瞬の後。



「ゼン、どうして……」



 痛みに喘ぎながら、エルは懸命に言葉を絞り出した。



「捕まったら、どんな罰が待ってるかわかんないんだよ!? 早く逃げなくちゃ……」



「いいんだ」


 ずっと黙っていたゼンが、突然、エルの言葉を遮って言った。



「もういい。これで全部元通りだ。おまえは安全で快適な生活が約束される。よかったじゃないか」



 ゼンが言い終わると同時に、ゼンとウォルターの足がふわりと宙に浮き上がった。


そのまま二人は上空に浮かぶ車めがけて飛んでいく。


おそらくはウォルターがPKを使って二人を浮かせているのだろう。



 呆然と見ているエルに、ふいに「ちょっと失礼」と声がかかる。


次の瞬間、エルの体はアレンに抱え上げられていた。



 エルを横抱きにしたアレンも、ふわりと宙に浮かび上がる。


エルはもう、抵抗などしなかった。


ただじっと、上空に浮かぶゼンを悲しげに見ていた。



 ゼンはウォルターと共に車の中へ消えた。


――最後まで、エルの顔を見ようとはしなかった。



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