ラスト・ジョーカー
「カンパニュラ、あれ――」
「ごめんなさい」
エルの言葉を遮って、カンパニュラが言った。
「わたしはもうなにもできない。もう、『巻き戻り』が始まってるの」
そんな、とエルがつぶやくと同時に、視界の端でなにかが動いた。
一同が一斉にそちらへ目を向ける。
ウォルターが、宙に手をかざしたところだった。
一瞬、攻撃が来るかと身構えたエルだが、すぐに違和感を感じて眉をひそめる。
――ウォルターが手を向けているのが、芽利加の方だったからだ。
瞬間、ゼンの閉じ込められている結界と芽利加とを囲む巨大な結界が空に現れた。
どうして、とつぶやくエルに、ウォルターが顔をしかめた。
「ぼくはべつに、副局長の命令だから聞いてただけで、芽利加さんに従ってたわけじゃない。局長があんたの味方なら、ぼくがあんたに敵対する理由はない」
だけど、とウォルターは続ける。
「あんたはPKを使えないだろ?」
「う、うん。使えない」
「局長もサイキックじゃないし、カンパニュラさんも今は使えない。
囚われの少年も体力の限界みたいだし、ぼくもせいぜいが結界を張る程度のことしかできない。アレンの筋肉バカはPKなんてかけらも使えない」
筋肉バカと呼ぶにはどう見ても細いアレンが、苦い顔で「このままじゃあ、まずいね」と呟いた。