愛を知る小鳥
しばらく書斎で仕事をしていると、控えめにノックの音が聞こえてきた。

「あぁ、もうこんな時間か…」

時計を見るともう4時を回っていて、あれからかなりの時間が経過していた。潤はドアへ移動するとそこにいるであろう人物に微笑みかけた。

「あの、専務、こんなに寝てしまってすみませんでした…」

美羽は少しバツが悪そうに俯きがちにしている。

「気分はどうだ?」

「はい。おかげさまでもうすっかりよくなりました。なのでそろそろ家に帰ろうと思っています」

「そのことで話したいことがあるんだが、いいか?」

「…?」


話したいこととは何だろうかと不安を覚えながら、美羽は前を歩く潤の背中を見つめていた。
大きな背中…。あの腕の中に何度も何度も抱きしめられた。そこは温かくて、心地よくて、ずっとそのままでいたいと思ってしまうほど安心できた。

…彼は何度も私を好きだと言ってくれた。
信じられないけれど、あの真剣な顔を見ていたらそんなことは言えなくなる。
彼は本気なのだと。そこまで長い時間ではないけれど、ここ数ヶ月ずっと一緒にいたのだから、彼が冗談であんなことを言う人ではないということは私がよくわかっている。それに…

美羽は指で唇にそっと触れた。
彼に触れられた唇はとてもふわふわで、まるで電気が走ったような感覚だった。
嫌…じゃなかった。人に触れられることは恐怖以外の何物でもないはずなのに、嫌じゃなかった。

私は彼のことが好きなんだろうか?
…まだわからない。わからないしまだ怖いと思う気持ちもある。彼の気持ちに真剣に向き合うためにも、まずはじっくり自分と向き合ってみよう、そう思った。
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