愛を知る小鳥
「…え? 今なんて言ったんですか?」

だが自分と向き合うことを決意したばかりの美羽に告げられたのは、天地がひっくり返るほど衝撃的なものだった。

「だからこの家で俺と暮らそうって言ったんだ」

「な…?! なにをいったい…」

大きな瞳がさらに大きく見開き、今にもこぼれ落ちてくるんじゃないかというほど驚愕に満ちた顔を見て、思わず潤が吹き出した。

「今のお前の顔凄いぞ」

「そっ、そんなの当然です! 冗談にもほどがあります! いきなりそんな…」

「冗談なんかじゃない」

笑っていたはずの顔が急に真顔に戻る。そのあまりにも真剣な表情に、美羽も次の言葉が出なくなってしまった。

「あの家で一人で生活していて今後どうなる? その男は確実にまた来るぞ。お前はそれに耐えられるのか?」

「…っ」

潤の言うとおりだった。昨日はたまたま逃げられただけだ。もし再びあのようなことがあれば、逃げられるという保証はない。たとえ運良く逃げられたとしても、またそれを繰り返すだけだろう。そもそも彼は仕事帰りに自分を見ていたと言った。つまりこれまで何度もつけられていたということだ。これからもいつどこで彼に監視されているかもわからない…
美羽はその事実を突きつけられゾッとし、身を守るように自分の体を抱きしめた。

「それ以前に俺が耐えられない。危険だとわかっているところに好きな女をみすみす帰すバカな男がどこにいる? それで万が一お前に何かあってみろ。俺は一生後悔する」

潤の瞳からは揺るぎない決意のようなものを感じる。

「お前が俺と暮らすことに戸惑いを感じるのは当然のことだ。だがお前を一人にするわけにはいかない。ここに暮らせば基本的には行きも帰りも俺がついてやれる。仮にあの男と顔を合わせることがあったとしても、仕事以外ではなくなる。どうすることがお前にとって一番安全なことなのか、冷静に考えてくれ」

美羽は何一つ反論することができなかった。
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