愛を知る小鳥
「遊園地とか動物園とか、なんだか家族の象徴のような憧れがあったんです。だから今日こうやって来られて幸せです。私には一生縁がないんだろうなって思ってましたから…」

フフっと笑いながら再び柵の向こうへと視線を戻すと、黒髪が風になびいてゆらゆらと揺れる。

「…そうだな。予行練習にもなっていいかもな」

「…え?」

意味がわからなそうにときょとんと振り返る。

「俺たちにいつ家族ができてもこれで大丈夫だ」

そう言って手を引いて歩き出す。

「え? …えっ?!」

後ろで意味を考えながら顔を真っ赤にしていく予想通りの反応を見せる彼女がたまらなく愛しい。言った本人も本当は死ぬほど恥ずかしいだなんて絶対に教えてやらない。
家族? そんな言葉が自分の中に存在していたなんて。
それ以前に誰かを連れてこんな所に来ることがあるだなんて予想だにしなかった。女性達とそれなりの付き合いがあっても、どこかに出掛けるなんてことはあり得なかった。誰かのために何かしたいとか、守りたいだなんて、一生縁のないことだと思っていた。

人はいつになっても変われる。唯一無二の存在に出会えたときに。
…それは彼女にも言えること。
だから彼女の未来を曇らせるようなことは何としても起こしてはならない。
絶対に守ってみせる____

「ほら、早く行くぞ!」

「えっ? あっ、ちょっと潤さん! 早いですっ! 待ってくださいっ」

笑いながら彼女の手を引いて思い切り駆けだした。
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