愛を知る小鳥
その言葉にあかねが一瞬目を伏せる。それを美羽は見逃さなかった。

「あかねさん! 彼は…潤さんはどこなんですかっ?」

悲痛な叫びにあかねは慌てて美羽の手を握りしめた。そして落ち着かせるようにゆっくりと言葉を選んでいく。

「美羽ちゃん、落ち着いて聞いて。専務は…あの男に刺されたの。まだ絶対安静が必要だけど、大きな峠は越えたって。だから安心してちょうだい」

あかねの発した言葉に美羽は愕然とする。

「そ、そんな…彼は今どこにいるんですか? 彼に会わせてっ…!」

あちこち痛みの走る体を無理矢理起こし、腕に刺さった点滴を引き抜こうとする美羽をあかねが慌てて引き止める。

「美羽ちゃんっ! まだ無理よ!! あなたもあちこちひどい怪我をしてるのよ! それに熱だってまだ高いの。安静にしてなきゃ駄目よ!」

「いや、嫌ですっ、離してください!! お願いします…お願いです、彼に会わせてぇっ!!」

激しく取り乱す美羽の姿にあかねはたじろぐ。だが、彼女がここまで感情を露わにする姿を初めて見た。それは全て潤のためなのか。その思いが痛いほど伝わってきて思わず溜息をついた。

「…わかったわ。彼は隣の部屋にいるの。連れて行ってあげるけど無理は絶対に禁物よ。それが守れないなら会わせることはできない。いいわね?」

「…はい…とにかく彼に会わせてください…」

今にも泣き出しそうな美羽の体をゆっくり引き起こすと、ふらつく体を支えながら病室を後にした。
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