愛を知る小鳥
隣の部屋に入ると、逆光の中静かに眠る人影が映る。

「…潤さん…?」

フラフラとおぼつかない足取りで近づくと、徐々にその姿がはっきりと見えてきた。

「潤さんっ…!」

辿り着いた先で見たのは、青白い顔で眠る彼の姿だった。
血の気は失せ、いつも見せてくれていたような穏やかな寝顔はどこにもない。

「潤さん、潤さんっ!!」

ボロボロと零れ落ちる涙を拭うこともせず、美羽は必死で潤の手のひらを掴んだ。彼女の手にも点滴の管が痛々しく刺さっているが、そんなことも気にせずぎゅっと握りしめると、掴んだ手をそのまま頬にあてた。

「潤さん…潤さん…」

「…美羽ちゃん、専務は最初は危険な状態だったの。でも奇跡的に回復したわ。それはきっとあなたに会いたくてだと思う。まだ目が覚めないのは出血が多かったせいだろうって先生が…。でももう峠は越えてるの。だからあなたも無理をせずちゃんと休まないと駄目よ? じゃなきゃ目が覚めたときに彼に怒られちゃうわよ」

少しでも励まそうと声をかけるが、美羽はただただ潤を見つめたまま。その姿をしばらく見守ると、あかねはそっと病室を後にした。


「潤さん、私のせいでこんなことになって本当にごめんなさい…。もう何も望んだりしません。ただあなたの無事だけを…だから…だから早く目を覚ましてください…!」


二人きりになった病室に、悲しげな美羽の言葉だけが響いていた。
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