愛を知る小鳥
その人影は美羽の姿を確認すると、ゆっくりと歩みを進めた。
やがて手を伸ばせば届くほどの距離までやって来たところで立ち止まる。

「…どこかに行くの?」

問いかけに何も答えることができない。
それどころか足が固まったまま身動きすらとれない。

「美羽」

名前を呼ばれ体がビクリと跳ねる。

何故…? 何故いるはずのない…
美羽は驚愕に目を見開いたまま微動だにできないでいる。

「美羽。どこに行くんだ」

「……ど、して…」

ようやく発することができた言葉はほとんど聞こえないほど弱々しいものだった。

「すぐ帰るって言っただろ?」

「…ど…して…? 潤さん…」

掠れた声でなんとか言葉を絞り出すが、体の震えは止まらない。
美羽の目の前にいるのは、他ならぬもう二度と会うことはないと決心したばかりの潤本人だったのだから。

「出張は嘘だよ」

フッと目を細めて微かに笑っているように見えるが、その目は全く笑っていない。
彼は……怒っている。
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