愛を知る小鳥
それから大成特製のケーキを全員で堪能すると、パーティもいよいよ最後の時間を迎えた。潤は美羽の腰にそっと手を添えると、その場に来てくれた全員に向かって頭を下げた。それに合わせるように美羽も続く。

「今日は私たちのために貴重な時間を割いてここに足を運んでくださり、心から感謝致します。ありがとうございます。…友人の大成の言っていた通り、私はこれまでどこか中途半端な人生を送っていました。やりたいことをやっているのにどこかで満たされない、そんな状態がずっと続いていたんです。自分の事を冷めた人間だと自覚もしていました」

ちらっと美羽を見ると、ふわりと微笑んだ。

「でも、こうして彼女と出会って変わることができた。私の変わりように驚かれている方も多いと思います。でも一番びっくりしているのは他でもないこの私自身です。自分の中にこんな感情があったなんて、彼女に会わなければ一生知ることもなかったでしょう。
こうして新たな自分になったことで、これまで気付かなかった…気付こうともしなかった多くのことが見えるようになりました。私生活だけでなく、仕事でもそれは大きな意味を持つことだと思っています」

腰に添えた手を少し自分に引き寄せると、美羽の意思を確認するように瞳を覗き込む。美羽はその優しい眼差しを真っ正面から受け取ると、全てを委ねるようにゆっくりと頷いた。

「…まだ公にするつもりはありませんが、ここにいる皆さんだけにご報告があります。実はこの度、彼女のお腹に新しい命が宿りました。私たちにとってかけがえのない家族です。これから何かと皆さんに迷惑をかけることがあるかもしれません。ですが、温かく見守っていただけたらこの上ない幸せだと思っています。どうか私たちを今後ともよろしくお願い致します」

二人はあらためて深々と頭を下げた。
美羽の思わぬ妊娠報告に、会場はこれまでで一番の盛り上がりを見せた。
心からの祝福の言葉に、美羽は化粧が崩れるのも気にせずボロボロと泣いた。震えてありがとうと何度も何度も口ずさみながら。



こうして愛する人達に囲まれながら、最高の時間は穏やかに終わりを告げた。
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