愛を知る小鳥
「香月さん」

店を出て少し歩いたところで後ろから呼び止められる。振り返って見てみると、先程まで共に過ごしていた百井の姿があった。

「あ、百井さん…今日はありがとうございました」

何故彼女が今もここにいるのだろうという疑問は頭の隅に追いやり、美羽は頭を下げた。しかしそれには目もくれず百井は話し始める。

「あなたにちょっとアドバイスをしておいてあげたほうがいいかと思って」

「アドバイス…?」

何の話か皆目わからない顔をしている美羽を一瞥すると、百井は薄く笑う。

「えぇ。あまり専務に迷惑をかけないようにって言っておこうと思って」

「迷惑? どういうことですか?」

「あなたパーティなんかにもその格好で行ってるらしいわね。専務に失礼だとは思わないの?専務を支えるべき立場の人間がそんなこともわからないなんて、秘書失格なんじゃないのかしら」

蔑んだ目で自分を見る百井の姿を見つめながら、あぁ、いつかもこんなことがあった気がする…なんてことをぼんやり考える。
百井が自分に対していい感情を持っていないだろうことは秘書課に来たその日から感じていたことだった。理由は間違いなく潤だろう。彼女が専務に好意を寄せていることはどんなに鈍感な自分でも気づくほどだった。隙さえあれば彼を目で追っていたし、また一緒にいる自分には明らかな敵意を剥き出しにして睨まれてきた。異動してきてから彼女と言葉を交わしたのは最低限度の事務的なことだけだ。
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