だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版





隣で静かにココアを啜る音がする。

森川は自分のマグカップを私に渡してくれた。



茶色のシンプルなマグカップ。

森川らしいマグカップだと思った。




「ありがと」




受け取って自分用にもう一度ココアを作る。

丁度良く牛乳がなくなった。

これは早々に松山に買って来てもらわなくては、と思ってくすりと笑った。




「俺は罰はなくていいのか?」




森川は私の方を向いて口を開いた。

それを聞いてなんだか可笑しくなって思わず笑ってしまった。




「なんで笑う?」




森川は真剣に質問を重ねる。

私はますます笑いそうになって堪えたけれど、肩が揺れるのを止められなかった。




「自分から『罰はなくていいのか?』なんて聞くのは森川くらいだな、と思って。普通は気にしないだろうに、真面目だなって。」




生真面目なんだか、天然なんだか、森川は本当にきちっとしている。

ぴったりな表現だと思った。

『きちっと』。




真面目な顔をして小さく、そうか、と言ってまたココアを啜る。

その言葉を聞いて、またくすりと笑いが漏れた。




「時雨のことは、ちゃんと女だと思ってるぞ」




不意にそんなことを言われて、思わず森川を見上げた。

当の本人は素知らぬ顔で私の手元を見つめている。

ココアの作り方に興味津々といった感じで。


持っていたマグカップを電子レンジに入れる。

もう一度温まるのを待つ間、機械的なブォーンという音が給湯室を包んでいた。




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