だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版





「ブラインド締め切っているけど、櫻井君もしかしてエスケープ?」




エスケープとは、いわゆる『サボり』ということだ。

にっこり笑って頷くと彼女はにやりと笑った。




「また飲みすぎ?しょうがないわねぇ」




彼女の声は、とても優しい響きをしていた。

世話女房的な物言いは、彼女をとても柔い表情にさせる。




水鳥さんと人気を二分するほどの彼女は、社内でも有名な『櫻井狙い』なのだ。

同期入社であり仕事の良き相談相手である櫻井さんに、好意を寄せるのは自然なことだと思う。

そして何より、同期としての二人はとても絵になる。

二人並んで仕事をしている姿は『憧れの大人』そのものであり、仕事が出来る者同士、同期の中で群を抜いて仲が良いのだ。


それは櫻井さん本人が知っているほど公言されているので、噂なんてレベルのモノではない。

彼女から溢れ出す『櫻井狙い』のオーラは、社内にいる人みんなが知っていて。

それほど感情を表に出せるのは、逆に清々しいと思って、私は好感を持っている。




でも、それは私からの感覚であって、彼女にとってはそうではないのかもしれない。

同じ部署でいつも一緒に仕事が出来る環境にいること。

そして、櫻井さんを一番見つめているこの人なら、私に対する櫻井さんの態度も違うことがわかるのかもしれない。




彼女は明らかに私に対して良い感情は持っていないだろう、と思う。

たまに感じる強い視線が『嫉妬』であることに気が付くのに、そう時間はかからなかった。




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