だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版





――――――――――――――……
―――――――――――――……




櫻井さんを残してミーティングルームを出ると、社長と秘書室のメンバーが歩いてきた。

廊下の端で少し立ち止まってお疲れ様です、と声をかける。


強い視線を感じたが、誰からのものかわかっているので顔を上げずにいた。

ヒールの音が遠ざかっていくのを聞いて給湯室へ向かう。



きっとこの後、視線を投げかけた人も給湯室にくるだろうな。



そんなことを思いながら足を進めた。

チームのみんなへ、お詫びのコーヒーを入れるために。




マグカップにコーヒーを用意していると、ピンヒールの響く音が聞こえてきた。

この人の足音は自己主張が強い、と思う。




「ミーティングルーム、誰かいるの?」


「お疲れ様です。今、櫻井さんが打ち合わせをしています。」




入ってくるなり、挨拶もなしに質問をなげかけられる。

手元から目を離してその人物へ目線を向ける。


顔の横で揃えられた前下がりボブの髪。

少しキツめな、でも綺麗な顔を見ながら答えた。




杉本亜季
(スギモトアキ)。

秘書室主任。

櫻井さんと同期の彼女は秘書室の有能なリーダーだ。


仕事が出来るという点では水鳥さんと同類だが、キツめな性格が少し人を寄せ付けない雰囲気を持っている。

タイトなスカートスーツは、いかにも『仕事が出来ます』という感じで、彼女の体に馴染んでいる。




< 92 / 107 >

この作品をシェア

pagetop