蒼夏の刹那
記憶にいない人
どうしてそんなに寂しそうな顔をするのか、私にはわからなくて。



なのに、罪悪感を感じるのは何故だろう。



「椎名は悪くないよ」

「どうして、あなたがそれを言うの……?」

「……今は言えない。だけど、オレはいつだって君の幸せを、ただそれだけをずっと願っている」



その人は、ただそう言って微笑んだ。



寂しそうな、哀しそうな――そんな儚く優しい微笑み。



呼び止めるなんてできなくて、去っていくのを見つめる事しかできなくて……



必死に記憶を手繰り寄せようとするけれど、記憶のどこを探しても――






あなたはどこにもいなかった。






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