蒼夏の刹那
バスが来たのはそれから少し後だった。



乗客は私たちだけで、一番後ろの席に座る。



ゆっくりと走り出したバスの中で、どちらともなく手を繋ぐ。



残された時間は短いのに、言葉は出てこなかった。



言葉を交わす事は大事だし、今話さないと後悔するのかもしれない。



――例えそうだとしても、後悔しない道なんて最初からどこにもない。



だったら、私は少しでも印象に残るように――今という、この沈黙を大切にしたかった。



流れゆく景色の中瞳を閉じ、私と蒼は同じ夢をみる。






あの坂道を、三人で歩いた時の事を。






ありきたりな日常だった、もう届かない大切な夢。






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