蒼夏の刹那
【蒼編】すべてを失くした日
あの日、おれは初めて雑貨店にドキドキしながらいった。



藍花を誘わなかったのは、もうすぐ誕生日でサプライズをしてあげたかったから。



店はピンクの建物で、扉にはレース、ディスプレイにはクマのぬいぐるみが飾られとって、おれは思わず立ち尽くしてしまった。



男のおれが、こんなかわええ店入ってええんやろか……なんや、めっちゃ場違いやないか?



おれが店前で悶々と悩んでいると、中から優しそうなお姉さんが声をかけてくれた。



「よかったら、中へ入って見てください」

「え……あの、中……誰かお客さんいますか?」

「いませんよ?」

「そ、そうですか!ほな絶対入りますっ!」

「はあ……?」



思わずガッツポーズをしたおれに、お姉さんは不思議そうな顔をした。



< 83 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop