翼~開け放たれたドア~
“──春輝”

………あ…。

私、今なら…

「そう。素直に解き放ちなさい。…心を」

──飛べる。

そう、頭のなかにその言葉が浮かんだ瞬間。

ブワリと大きな風が私の髪を巻き上げ、一際まばゆく輝く光。

不思議と、そんなことに私は戸惑うこともなくて、心を満たしていく温かな感情を確かめるように、自分の胸の前で両手を静かに組んで、それを胸に軽く押し当てる。

背中の肩甲骨辺りに熱が集中していってるみたいだった。

じわじわと、頼りない何かが、確実に形になっていく…。

「…大丈夫。飛べるわ」

「……お母さん」

「──春輝ならきっと飛べるわ」

あ、あれ…?

”──春輝ならきっと気づけるわ”

頭に響く、お母さんの声。

ここにいるのは確かにお母さんなのに……、私はここじゃないどこかでお母さんの声を聞いていた…?

「だって、あなたは、私の──」

“ だって、あなたは、私の──…”

目の前のお母さんと、頭のなかのお母さんの声がシンクロしていく。

あぁ……どうして気づかなかったんだろう。

お母さんはこんなにも──

「愛する娘なんだから…」

“愛する娘なんだから…”

私を愛してくれていた……。
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