明日、嫁に行きます!



「・・・知ってるんですよ? 寧音。貴女、同じ大学内の助教授に、言い寄られてますね?」


その言葉に、寧音の身体がビクリと揺れた。


「・・・ふふっ。寧音は本当に嘘のつけない子だ」


あ、と思った時には、寧音の両腕が後ろに回され、総一郎が手にしたネクタイで両手首を縛られていた。

驚きで言葉を失う寧音に、総一郎は言った。


「・・・浮気をする悪い子は、お仕置きです」


スッと眼鏡の奥の眸が、凶暴な色を刷きながら眇められる。


「ち、ちちち違う違うッ! 確かにそんなこと言われたけど、断った! ちゃんと言った! 浮気なんてするわけない!」


寧音は誤解だと必死に頭を振って否定する。

寧音の身体に覆い被さるようにして抱き込みながら、総一郎はハッと鼻で嗤った。


「・・・当たり前でしょ? もしそんなことしてたら・・・ふふっ」


黒い笑みを唇に乗せたその様に、寧音は本気で怖気あがる。

堪えきれなかった嗚咽が、ひいっと喉の奥から零れた。


「こここ怖い怖いッ! 何もしてないのにお仕置きとかなに!?」


「・・・僕にひと言も言わなかった。相談もしてくれなかった。そんなに僕は頼りないですか」


肩を落としたその姿に、言わなかったことに対して申し訳ない気持ちに苛まれる。


―――だけれども。


・・・・頼りないから言わなかったんじゃない。言ったら最後、相手も自分も何をされるかわからない。


・・・怖くて言えねー・・・。


寧音は今までのことを思い返し、心の中で本音を零す。


「言わないと言うことは、何か後ろ暗い想いがそこにあったからだ。つまり、それは浮気と言えなくもない」


「そんなむりくりな!!」



ありえない! と、寧音は悲痛な声を上げた。


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