明日、嫁に行きます!


「・・・ちょっと。なんで私、追い詰められてるのよ」


追い詰められるべきは私をかっ攫った貴方の方でしょ、と寧音は恨みのこもった眸で見上げ、唇をムッと引き結んだ。

背後は100万ドルの夜景が広がる大窓。前には夫という名の獰猛なケダモノ。



―――前門の虎後門の狼。



それでも負けてられるかと、寧音はさらに目力を込めて睨んだ。


「・・・寧音が僕から逃げようとしてるからでしょう」


―――逃げられると追いたくなる。


そして、捕まえたら喰らいたくなる。

肉食獣の習性を地で行く男は、凄絶な色香を放ちながら、妻である寧音を籠絡しようと迫ってくる。


「だ、だいたいね、総一郎さんは昔っからワガママなの! 周りのこともちゃんと考えて行動しなきゃダメでしょ!」


まるで母親のようなことを口にする寧音に、総一郎は一瞬呆気に取られた顔をする。そして、プッと吹き出した。



「僕は一人っ子なので、我が儘なのは仕方ありませんね。寧音以外の雑多な事なんて、徹に任せておけばいい」



―――その他など微塵も興味ない。


そう言って寧音をすっぽりと両の腕で包み込み、彼女の逃げ道を塞ぐ。

そして、総一郎は妖艶な微笑を浮かべながら、彼女の耳元に綺麗な弧を描く唇を寄せた。



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