明日、嫁に行きます!
「確かに。寄ってくる女性は大勢いますね」

 自慢か。
 そう言ってやろうとして、口をつぐんだ。

「ただ、それだけです」

 鷹城さん、ひどく悲しそうな顔をしてたから。

「……そう。お金持ちでハンサムなのも困りものね」

「ええ、お互い様ですね。だからこそ、僕は貴女がいいんです」

「……はい?」

 なぜ、がない。
 なぜ私がいいというのか。
 結論だけもらっても、そこに至る具体的な理由がない。
 言ってることが一方的過ぎてムカムカする。

「意味わかんない。なに? 一目惚れってヤツ? この顔が気に入ったの?」

 嘲るように言ってやる。
 もし答えがイエスだったらぶん殴ってやろうと、私は膝の上で拳を固めた。

「顔? 貴女なにか勘違いしてませんか」

 心外だとばかりに、眼鏡の奥の双眸が細められる。

「は?」

「貴女なんてそれほどのものじゃないでしょう。芸能界なんて貴女程度の顔ならゴロゴロいますよ」

 私程度がゴロゴロいるって。
 まさか容姿でここまで貶されるとは思ってもみなかった。
 驚いて相手の顔をまじまじと見つめてしまう。

「僕は仕事の関係上、芸能界に知り合いは多いんです」

 ――――寧音さんの顔なんてたいしたことない。貴女など、ただの跳ねっ返りなじゃじゃ馬でしょう?

 そう、嘘のみえない瞳で言うものだから。

「あっははは! あんたみたいな男、初めてだわ!」

 おかしくて。
 容姿を否定されたことが、私にとっては嬉しくて。
 容姿だけしか取り柄のないお人形じゃないんだと、私自身を見てくれたように感じて、ただ、嬉しかった。

 笑いながら、私は目頭が熱くなるのを止められなくて。
 隠すように俯いた私の目から、涙がぽとりとこぼれ落ちた。
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