明日、嫁に行きます!
「頑固ですね。大丈夫ですよ。貴女の借金に上乗せしておきますので」

 非情なそのセリフに、私の頭がフリーズした。

「な、なに―――ッ!」

「必要経費ですから」

 にっこり。
 反論は許さねえって顔で微笑まれても、全っ然納得できない!!
 鬼か、この男!
 物申してやる! と、息巻いて口を開いた時、鷹城さんに腕をガシッと掴まれた。 

「ああ、もうそのままでいいです」

 私の腕を掴んだまま、文句の言葉も丸無視されて、そのまま外へ連れ出されてしまう。

 ……最悪だ。

 髪なんて輪ゴムで留めているのに、格好だってパリッとスーツを着こなした鷹城さんとは不釣り合いなものなのに、そんな女を『ブティック』なるセレブリティな響きのする場所へ連れて行こうというのか、この男は。
 ある意味、鷹城さんはチャレンジャーだと感心する。
 私は留めてある輪ゴムを外し、髪を手ぐしで整えながら、鷹城さんにむっつりとした顔を向けた。

「で? 私はどうしたらいいの」

 地下の駐車場に止めてあるグレーの高級車に乗せられ、ぶすくれた不機嫌声で疑問を口にする私に、鷹城さんはフッと笑って、

「まずは服を整えてから、本社の方へ行きます」 

 ハンドルを捌きながらそう告げた。

「……本社って。私、全然関係ないじゃない」

「その後、食事に行くって言ったでしょう」

 お前はバカか。
 ミラー越しに艶めいた嘲りの視線を投げて寄越す男前に、私はイ――ッと威嚇してやった。

「ふっ、貴女は本当に飽きませんね」

「さっさと飽きてしまえ」

「それはあり得ません。やっと出逢えたのに」

 いやにハッキリとした物言いと、『やっと出逢えた』という意味深なセリフが引っかかった。

「なにそれ。あのパーティが初対面でしょ?」

「……まあ、そうですね」

 なに、中途半端なその間。気になるんですけど。
 だいたいこんな綺麗な男、さすがの私も一回見たら覚えてるわ。

 ……でも、気になる。

 もしかしてパーティ以前にどっかで会ったのかなと、記憶の引き出しを開けまくるんだけど見つからなくて。
 疑念を晴らすべく問いを口にしようとした時、

「さ、ここで着替えてもらいます」

 会話はもう終わりとばかりに打ち切られてしまった。
< 32 / 141 >

この作品をシェア

pagetop