明日、嫁に行きます!
「月曜日からよろしくお願いします」

 はい決定。と、さっさと仕事に戻る彼らを横目に、私はひとり取り残された。

「……いっ、一万!?」

 5分くらい放心した後の私の叫びに、徹くんはビクッとなった。

「……い、今頃反応した、の?」

 徹くんに、『えーホントに大丈夫なのこの子ー』な目で見られたけれど。
 鷹城さんの金銭感覚って一体どうなっているんだろうか。
 時給一万って、イカガワシイことされるんじゃないかって疑う金額だよ。
 さっきの高級ブティックでも感じたが、金銭感覚が絶対おかしい。世の中小銭なんてものは存在しないとか思ってそう。
 鷹城さん、もしかして、お金の単位は「万」しか知らないんじゃない?
 彼は無知なのかバカなのか、どっちだろう。
 鷹城さんに限って無知って考えられないから、うん、きっとバカなんだろう。バカな鷹城さんっていうのもあんまり想像出来ないけど、部屋も散らかしまくるし、ゴミすら自分で捨てられないくらいだし。
 お金が有り余りすぎて金銭感覚が崩壊したバカなんだろう。きっとそうに違いない。ヒガミじゃないよ、うん。
 なんて自分に言い訳しつつ、鷹城さんの一連の発言にとりあえず納得した私は、再び彼らの観察を始めたんだけど。

 徹くんがにこにこ可愛らしく笑うたび、それを見る鷹城さんの双眸が優しく緩む。

 ――――あれ? なんか私、今、デバガメしてる気分なんだけど……なんでなんで?

 じーっと穴が開く程彼らを見つめていた私は、知らず、ある衝撃の事実に辿り着いてしまう。
 私はガバッと身を乗り出した。

 ――――彼だ、徹くん!

 切ないプラトニックラブのお相手は! 間違いない!

 名探偵が『犯人はお前だ!』というシーンが脳裏を過ぎる。今まさにそんな心境。鷹城さんの心を射止めたのは、『徹くん! お前だ!』って感じ。
 今度は徹くんを注視する。
 確かに、鷹城さんの従兄弟の徹くんは、女の子もビックリな可愛らしい容姿をしている。
 黒目がちで大きなアーモンド型の双眸は目尻が少しだけ吊り上がり、アイラインを引いたようにくっきりしてて。眸を取り囲むバサバサまつげは、マッチ何本乗るだろう? ってくらいで……ホント、羨ましすぎて毟ってやりたい。マスカラを手放せない女子代表の私は、艶やかなあのまつげにメラメラとした嫉妬を覚える。
 その上、ぷくりとした唇はリップいらずなつやつや具合で、スッと通った鼻筋もいかにも知的っぽい。極めつけは、白磁のようなきめ細かい肌、ファンデーション塗ってますかって真面目に聞きたくなるほどだった。
 上から下まで舐めるように見尽くして、女子の羨望を集めかねない見事な美少女っぷりに脱帽した。
 あれなら男でもコロリといくに違いない。
 驚愕の事実だ。
 従兄弟同士で禁断の愛。可憐な彼は、鷹城さんの想い人。
 そう思って、私は『うっ』と手のひらで口元を押さえ込んだ。

 ……ヤバい。興奮してきた。

 興奮して顔が赤くなってるかも知れない。緩みそうになる口元をもぐもぐさせて、何とか耐えた。
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