明日、嫁に行きます!

「……寧音? 貴女、なにニヤニヤと気持ち悪い顔してるんですか」

 いや、女性にそのセリフはないんじゃなかろうか。
 気持ち悪い顔って。
 いやいやいや、それよりも。
 私は我慢できずに、鷹城さんに向けてグッと親指を突きだした。
 パチンとウインクまでしてやる。

 ――――私、貴方の秘密、知っちゃいました!

 鷹城さんは大きく目を見開いた後、私と徹くんを見比べて、ハッと閃いた顔をした。
 そして、般若のごとく怒りの形相で私を睨みつけた。

「……寧音――――ッ!!」

 ひぃ―――――!

 空気を震撼させるほどの凄まじい怒声に、思わず直立不動で立ち上がってしまう。

「今、もの凄く気色悪い想像しましたね!? あっ、こら、待ちなさい!」 

 能ある鷹は爪を隠す、もの凄い俊敏さを披露してその場から逃走を図った私は、鷹城さんの怒号を背に、廊下を突っ切ってエレベーターホールまでやって来た。
 誰も居ないことを確認しながら、弾む呼吸を整える。

「あ、あんなに怒らなくてもいいじゃない」

 徹くん本人に鷹城さんの切ない恋心をチクってやろうなんて思ってやしないのに。
 そんな非道な人間じゃないわよ。失礼しちゃう。
 唇を尖らせながら、鷹城さんの不条理な怒りに腹を立てる。
 私は大きく息を吐きながら、憮然としたままホール前の大きな窓から外を眺めてみた。

「こっ恐ッ」

 たっかーっ。
 巨大なビル群が目線の下にあるなんて、もはや恐怖以外の何物でもない。
 怯えて窓から後ずさる私の背後で、気配なく近付いてくる男の影を足元に捉え、ビクッと肩が跳ねた。

「高いところ怖いの?」

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