明日、嫁に行きます!


 本社ビルに着いた時、ロビーが騒然としてた。諍いの声があがる先に目が止まる。

 ――――あれ、あの女の人……?

 ロビーの受付嬢に大声を張り上げて、彼女たちを困らせていたのは見覚えのある女性だった。

 ――――あの女の人、パーティーで鷹城さんのお婆さんにぶつかって謝らなかった失礼な人だ!

 声を荒げるその女性をじっと睨みつける。
 鷹城さんは、騒がしいロビーにチラと視線を向けただけで、何事もなかったかのように私の手を掴んで歩き出す。
 私は腕を引かれるまま、騒ぎから視線を逸らせずにいたんだけど。

「総一郎さん!」

 渦中の女性がこちらを振り向いたと思ったら、鷹城さんの名を呼び、必死な形相で走り寄ってきた。
 私はびっくりして彼女をガン見してしまう。

「どういうことなんですの!? 貴方に取り次ぎをお願いしていましたのに、拒否されるなんて……こんな侮辱、初めてですっ!」

 とても楚々とした容姿をしているのに、それをぶち壊すような激情を面に乗せて詰め寄ってくる。対する鷹城さんは、

「高見沢さん、私は個人的に貴女と会うつもりはありません」

 ――――以前、きっぱり伝えたはず。

 ウザい消えろ的な眼差しで、冷淡に対応する。
 うわあ、そんな冷たくしたら、この女の人……。

「なんですって!? 貴方だっておわかりのはず! 高見沢と結びつくことが鷹城にとっても利益になると、」

「貴女の力を借りなくとも、私の会社が傾くことなどない。勘違いするな」

 底冷えするような怒りを孕んだ声で、双眸で、その女性、高見沢さんを射る。
 彼女はブルブルと小刻みに震え、悔しげに濡れる眸が、ふいに私へと移った。
 射殺されそうなほど強い、憎々しげな眼差し。鬼気迫るほどの威圧に、私は身体を強ばらせた。

 ――――なに……!? なんでそんな怖い目で、私を睨むの!?

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