明日、嫁に行きます!


 言われた通りに目を通し、「あれ?」と思ったことは、その場で意見しながらこなしていく。

「あ、この記事、ニュースで見たわ。メタンハイドレートからガス採取成功、世界初って。固形であるメタンハイドレートから、メタンガスの抽出が可能になったんでしょ? 南海トラフに大量のメタンハイドレードが埋蔵されてるっていわれてるもんね。エネルギー不足に悩んでる日本が、エネルギー大国になっちゃうかも」

 学会の論文を交えたその書類を読み込んで、雑談混じりに鷹城さんへと話しかける。

「ええ。実際、次世代エネルギーに対する期待度はかなり高いですよ。そのニュースが流れる一日前には、メタンハイドレート関連銘柄において、大幅な株価変動がありましたからね。エネルギー自給率が4%しかない日本で、メタンハイドレートから生産されるメタンガスが、日本のエネルギー事情を好転させるきっかけになるのではと言われています」

 大学ではあまり出来ない話(真面目な話すると浩紀とかめっちゃ嫌がるんだよね)が鷹城さんとなら出来ることが嬉しい。
 私は指示される内容を嬉々としてこなしていった。


 気がつけば、時計の針はすでに18時を回っていた。

「寧音、今日は帰りが遅くなりそうなので、私が先に送っていきます」

「一人で帰れるよ。子供じゃあるまいし」

 いそいそと帰り支度を始める私に、

「ひとりは危ない。少し待ってて下さい」

 鷹城さんは焦った声で引き留めてくる。でも、忙しい彼の手を煩わせるのはイヤだった。

「大丈夫大丈夫。じゃ、先に戻ってるね」

 呼び止める声を無視して、私は社長室を飛び出した。

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