明日、嫁に行きます!
 ――――違う。それは私じゃない。

 フランスにいるお祖母ちゃんから聞いた『マタイの福音書』を引用して貴方を救ったのは、私じゃなく……妹のサラだ。

 私は目の前が真っ暗になった。

「……その子も、私と同じ紫の瞳をしてたの?」

 彼の顔をこれ以上見ることが出来ず、鷹城さんに背を向け、私はカサカサに乾いてしまった声で質問した。

「はい。綺麗な紫水晶の瞳でした」

 ポロリと涙が零れ落ちた。
 やっぱり。それはサラだ。
 紫の瞳は女の子に遺伝する。
 サラも、私と同じ藤色の瞳を持つ子。
 子供の頃、あの子はよくお祖母ちゃんに強請って、私と一緒に聖書の言葉や『マタイの福音書』を聞いていた。
 そして、それを口癖のようにして人に話して回っていた。
 自分の記憶をいくら辿ってみても、私には誰かに話した記憶など見あたらない。……見あたらないんだ。

 ――――私じゃない。私じゃない。

 頭を殴られたようなショックが全身を貫いた。

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