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(貴一さんとの初めての大人のキスは、苦いコーヒーの味がしたっけ……)


思い出すだけで体が熱くなる。
気恥ずかしさを誤魔化す様にぐいっとカフェオレを一気に飲み干した。



「ご馳走様」

「お粗末様」


飲み干したカップを洗い終え、私はコートを羽織って鞄を手に取る。


「もう帰るのか?」

「うん。買い物しに行かなきゃだし」

「あんま遅くなるなよ」

「うん。せんせー、ありがとー」


そうして保健室をあとにして学校を出る。

暖かだった保健室とは一転、外はめちゃくちゃに寒い。びゅーびゅー風が吹く度にスカートとソックスの間の素肌が寒さでびりびりした。


(明日からタイツだね、こりゃ)

あまりの寒さに明日からタイツを履いてこうと考える。澪みたいに足細くないからタイツ似合わなくて嫌なんだけど、この寒さの前にはそんなこと言ってられない。

買い物リストにタイツを加えながら、のろのろと帰り道を歩いた……。



駅の近くの百貨店に入ると、もうすっかりバレンタインを意識した内装の店内に、なんだか不思議な気分になった。
まだ1月の真ん中になる前なのにもうバレンタインだなんて気が早い。


(でも、そっか……もうすぐバレンタインかぁ……)

日本では好きな人にチョコレートを贈る日とされたそのイベント。
今までママや友達に贈るだけの、いわゆる友チョコしか作ったことなかったけど……。


でも、今年は、好きな人がいる。
本命のチョコレートを贈りたい人がいる。

そのことを自覚してしまうと、なんだか胸の奥がムズムズした。




(きーちさんにチョコレート贈ったら喜んでくれるかなぁ……)


ふとそんなことまで考えてしまい、頬が緩む。きっと貴一さんなら、子どもみたいに喜んで受け取ってくれそうだから。

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