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■ □ ■ □




「澪はバレンタインは陸にチョコ作るの?」


翌日の学校で、参考までに澪にバレンタインの予定を聞いてみる。


「うん。作りたいけど私器用じゃないから自信ないの……」


そう言った澪は自信なさげに控えめな笑みを浮かべている。
確かに澪はちょっと不器用なところがあるからお菓子作りとかは苦手なのかも。


(けど、澪の作ったものなら陸は喜んで食べると思うけど……)

チョコを受け持ってのほほんと笑う陸の姿を思い浮かべてこっそり笑う。



「それならあたしと一緒に練習しよっか?」

「練習?」

「そう!本番までに試しに一緒に作ってみようよ」

「うん、奈々子ちゃんと一緒なら上手く出来そう……、ありがとう奈々子ちゃん」


そう言って涙目の澪がぎゅっと私の手を握る。

潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、恥じらいを含んだ控えな笑みを浮かべていて……。



(か・わ・い・い……)


可愛いすぎる澪に私も思わずぽっとなった。



そんなこんなでお昼休みの時間に図書室へ行って、ふたりでお菓子作りの本を借りた。

そして教室に戻ると、さっそく借りてきた本を机に広げてあれこれ作戦会議。


「溶かして固めるだけじゃつまんないから、やっぱり焼き菓子系が良いよね!」

「でも難しそうだね……」


本をペラペラめくりながら澪が困った風に笑う。確かに本に載ってるお菓子はちょっと初心者向けじゃないかもだけど、作れない訳じゃない内容だ。


「あ!これなんか良いんじゃない?」

そう言って澪にすすめてみたのは、小さめのチョコケーキ。濃厚な感じがしてとっても美味しそう……。



「なに見てんの?」


澪とケーキの写真を見ていたら、ふいにそう上から声が降ってきた。顔を上げれば陸が澪の後ろに立っていた。


「みーお」

「きゃっ」


澪が振り向く前に陸が澪を後ろから抱き締めた。相変わらずの初々しい反応を見せる澪に、陸はいたずらが成功したみたいににんまり笑ってる。


「ただいま」

「おっ、おかえりなさい、陸くん」


陸に抱き締められて恥ずかしそうに澪が顔を赤くした。可愛いすぎて、こっちまでにやけそうになる。



「これ、ケーキ作るの?」


澪を抱きしめたまま陸が、机の上に開いたままの本に目を向けた。
ページには美味しそうなチョコケーキの写真とレシピが載っていて、作ろうとして見てたことは誤魔化しようがない状況。

陸はいつも昼休みは生徒会の用事で教室を離れてるから油断した。
まさかこんなに早く帰ってくるなんて……。



「うん!あたし最近お菓子作りにハマっててさー、澪も一緒に作ろうって話してたとこなんだぁー」


さらっと陸にそう嘘をつく。
まだ1月だし、こう言っておけばバレンタインのためとはまず思わないだろうから。


私の嘘に澪はちょこっと目をまん丸くさせて、それから「ありがとう」と言うみたいな笑みを私に向けた。


(どういたしまして)

そう思いながら微笑み返す。







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