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お墓参り

■ □ ■ □



土曜日の朝。

那由多さんは寝坊せずに早起きをした。



「この辺に花屋ある?」

慌ただしく朝食の支度をする私に、那由多さんはのんびりとお茶を飲みながらお花屋さんのことを尋ねた。



「お花屋さん、ですか?駅前に一軒ありますけど」

「ふーん」



彼は今夜も我が家に泊まって、明日仕事場があるニューヨークへ帰るらしい。
だから今日の予定は、前に言ってた用事とやらだろう。

でも、お花屋さんって……




「母さんの墓参りに行こうと思ってね」


私が尋ねる前に那由多さんがそう言った。思わず作業の手が止まる。

お墓参り……その言葉に、私はなんだか居心地の悪いような、不安な気持ちに駆られた。




「道案内してよ」

那由多さんが私の顔を見ずに、そう言った。

咄嗟のことで私がなにも答えられずにいると、ママが「行ってきたら?那由多くん一人じゃ道に迷うわ」と私に向かって言った。


「……うん」

ママに言われて頷くと、那由多さんは「あんがとね」とまた私の顔を見ずに小さく呟いた。



朝食を食べて身支度を済ませて、私は那由多さんと一緒に出掛けた。
今日はあまり良い天気でもなくて、空は暗く、風は冷たい。もしかしたらまた雪が降るかもしれない……。


案内した駅前のお花屋さんで、那由多さんはカサブランカの花束を買った。
それからまた少し歩いて、町の高台にあるお墓までやってきた。


お墓って、私はなんだか苦手だ。

(砂利を踏む音とか、お線香の匂いがなんか不安な気持ちになるんだよね……)

そんなことを思いながら那由多さんの後ろを付いて歩いた。




「今日は母さんの誕生日なんだ。いつもは墓参りなんて来ないけど、今年は家のことで戻ってきてたからついでにね」


そう那由多さんは教えてくれた。


「これ、母さんの墓」

那由多さんのお母さんのお墓の前まで来ると、私はあるものに目を止めた。



「これ……」

「貴一君だ」


すでにお墓に供えられていたカサブランカのお花を見て、那由多さんが声を上げる。



「貴一さんが……?」

「うん。母さんの墓参りに来るのなんて貴一君くらいだから」


そう言って那由多さんは小さく笑った。
それから手にしていたカサブランカの花をお墓に供えて、そっと手を合わせた。

私も一緒になって静かにお墓に手を合わせる。



(那由多さんのお母さんか……)

どんな人なんだろうかと、心の隅で考える。なんとなく、私のママと似ているような気がした。



「帰ろうか」

那由多さんは頭を上げると、随分あっさりそう言った。


「良いんですか?」

「うん」

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