1641


そうして本当にあっさりとお墓参りは終わった。

名残惜しむ様子も無くすたすた歩く那由多さん。その後ろを私はまた付いて歩いた……。


霊園から出る時、向かい側から歩いて来る人がいた。その人が歩く度、じゃりっと、砂利石を踏む音が静かに響く。

その音に私はびくびくと無意識に体を強張らせた。



「どうしたの?幽霊じゃないよ」

「わかってますよっ!!」


那由多さんがからかう様に私を見る。
おかげで、向かい側から歩いて来た知らない人には変な顔をされた。

すれ違い際に小さく会釈をして、少し離れた所で那由多さんに文句を言った。


「もう!変なこと言わないで下さいよ、恥ずかしい」

「そんなビクビクしてるからだよ。もしかして墓場とか幽霊怖い系?」

「怖くないですよっ!!」


子ども扱いが悔しくてそう言い返す。
言い返してから、この反応がもう子どもっぽいかもと少し後悔。


「……お墓ってなんか苦手なんです」

「ふーん、なんで?」

「なんでって……それは、えっと、嫌な思い出があって……」

「嫌な思い出?」



……そうだ。

お墓には嫌な思い出があったんだ。


あれは私が5歳位の頃。
ママに連れられてお父さんのお墓参りをしたことがあった。

その時に……




「その時にお父さんのお姉さんと鉢合わせしたんです。それで、その人がママのこと叩いたんです」

「叩いた?」

「……はい、頬を思いっきり」


今思い出しても怖くて身体が強張ってしまう。

砂利石を踏む音。
お線香の匂い。
踏み潰された菊の花。
ママを叩いて怒鳴りつけたあの人の顔。

幼かった私はママにすがりついて泣く事しか出来なかった……。


それ以来、お墓はなんだか怖くて。
私はお父さんのお墓参りに行ったことはなかった。




「君のお父さんのお姉さんってことは、随分なババァなんじゃないの?」


「ババァって……」


「もうとっくに亡くなってるんじゃない?墓参りくらい行けばいいのに」


那由多さんは遠慮なくズケズケとそう言った。

相変わらずマイペースな態度のこの人に、私はさっきまでの恐怖心も忘れて思わず笑ってしまった。

< 172 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop