1641


そうして霊園から出た頃。
ぽつりぽつりと冷たい雨が降り出した。
一際強い風が吹いた。


今は小降りだけど、すぐに本降りになりそうな気配。傘を持ってなくて慌てる私の腕を那由多さんが引いた。


「こっち」

それだけ行って那由多さんが私の手を引いて走り出した。


「えっ、ちょっ」

止める私の声も無視して那由多さんが走る。私はなにがなんだかわからないまま、彼に引かれるままに走った……。





「ここ。雨宿りしよう」

「ここで……?」


着いた先は空き家だった。
古民家を洋風に改築したようなお家。誰も住んでないみたいで、お庭の草は生え放題。



「えっ、勝手に入ったら怒られません?」

「大丈夫だよ、ここ母さんの家だもん」


言いながら那由多さんは雨戸を開けた。
そして私を置いてさっさと家のなかへ入ってしまった。

追いかけて良いものかどうか少し迷ったけれど、雨が次第に強くなってきたので素直に追いかけることした。




「なんか、泥棒みたい……」

「金目のものなんてないけどね」


びくびくする私に那由多さんは平然とそう返す。言われて家のなかを見渡してみると、お部屋のなかは埃まみれで荷物もぐちゃぐちゃだった。



「那由多さんのお母さん、ここに一人で住んでたの?」

「一人じゃなかったよ。ジジィ……俺の本当の親父と、それから貴一君。あと、俺が母さんの腹のなかにいたから」

「貴一さんも……?」

「そう、16の夏に。夏休みはずっとここで過ごしてたんだって」


那由多さんの言葉に、私はとくんと胸が鳴った。


(16歳の貴一さん、今のあたしと同い年の……)


当然のことだけど、貴一さんだって16歳だった時代があるわけで……。
それなのに私は、私と同い年の貴一さんなんて想像ができなかった。



「……写真あるよ。見たい?」

「見たい!」


尋ねられて私は勢いよく返事をした。
私の返事を聞いて、那由多さんは別の部屋に入っていった。

そして少し経ってから、埃まみれのリングノートを手にして戻ってきた。



「アルバムですか?」

「スクラップノートって言う方が正しいかな。ほら、これ」


ページを開いて見せてくれたのは、若い日の貴一さんの姿。


ポラロイドの写真のなかには、学ランの制服を着た貴一さんが居た。
今よりずっとずっと若くて、生意気そうで。髪もくしゃくしゃ。



(かっこいい……)


もう一回惚れた。


< 173 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop