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■ □ ■ □



(気まずい……)


貴一さんの運転する車に座りながら私はぎゅうっと膝の上で手のひらを握ぎりしめる。


那由多さんを迎えに来た貴一さんは、私の姿を見て驚いた様な怒った様な、なんだかよくわからない怖い顔した。

口数も少なくて、むっつり黙ったまま。

私とは目も合わせてくれないわけで……。



「お二人さん、なんか話しなよー」


なんて言って、にししっと那由多さんが意地悪く笑う。

そんな那由多さんの言葉に、貴一さんが黙ってミラー越しに彼を睨みつける。
私は、そんな貴一さんにますます口をぎゅっと硬く結んでしまうわけで……。



(話なんか無理だしっ!!那由多さんのばかっ)

心のなかでそう叫ぶ。
那由多さんなんて嫌いだ!大嫌い!



そんなことを考えているうちに、車が止まった。私の家に到着したんだと思ってほっと小さな溜息を零しながら顔を上げる。

しかし、車が止まったその場所は私の家の前ではなかった。


(ここ、貴一さんのマンション……!?)


車の止まったそこは、貴一さんの部屋があるマンションの真ん前だった。


「貴一君の家?」

「お前はここで待ってろ」


不思議そうにする那由多さんに貴一さんは静かにそう言った。お前はって、那由多さん限定な言い方に私はびくりと肩を震わせた。


(那由多さんは待ってろってことは、私はっ!?降りろってことっ!?)

そう内心でびくびく考えていると、貴一さんが私の方を向いた。

目と目が合って、心臓がどくんどくんと早鐘を打った。



「奈々子ちゃんは降りて」

「はっ、はいっ!!」


びっくりして声が裏返った。

「奈々子ちゃん」という呼び方に、ぎゅうっと胸の奥が痛んだ。


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